活動を体験することでその仕組みのボトルネックを探し出し、新たな仕組みを構想する

活動する人たちとともに 社会の仕組みを紐解き 再構築

構想モデル化と想起発想法

構想のモデル化

よりよい発想を促すためには、物事に対し知的好奇心をもつことが大切です。好奇心の源泉は体験と知識と環境といえますが、現代社会における情報は、要素還元的(Reductionism)な絞り込みにより検索されることから、ものごとの関係性から生み出される発想力(知恵の醸成)につながることは難しいものと考えます。世の中を全体社会としてとらえるとともに、社会で起こる事象の関係性の学びを知識化することで、よりよい発想のための重要な基盤が出来上がります。

 

図式化された情報は、関係性がコンパクトになるため、直感的に記憶することができます。さらに、古代エジプトのヒエログリフのように情報をメタファー化することで、より鮮明なイメージとして記憶できるので、記憶容量の軽減とともに、記憶の出し入れも容易になります。情報の新たな整理方法といえる「想起発想法」(Abduction)の研究は、学ぶ人々の個性ある発想法に役立ちます。これは「記憶する」ことより、むしろ「想い出す」ことに重点を置いた思考法といえるでしょう。

構想博物館「研究饗宴」にて Y.Hasebe  2013/8/11


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星座思考法で新たな構想を描く

構想を発想する方法のひとつとして、アソシエーショニズムをベースにした新たな構想発想法を考えてみた。宇宙には小さな塵が無数に存在し、常に膨張しているという。その混沌とした世界では、僅かなゆらぎにて小さな塵が集まり星が形成される。やがて巨大な求引力により星が誕生してきた。知の結集した本が集まる図書館は小さな宇宙だ。そう考えると、一人一人の脳内にも、小さな宇宙が存在していてもおかしくはない。その小さな宇宙で輝く星を繋いでみよう。ここに新たな関係性を有した星座が誕生するはずだ。星座による構想発想法は、この考え方が原点となる。

図書館は小さな宇宙

2013年12月7日、東京駅近くで行われた日本地域資源学会(塚原会長)の「本のサロン」に参加した。基調講演のテーマは、構想博物館館長の望月先生による「血と知と地の世界を遊行する」。

 

赤ワインとパンは、神の子イエスの血と肉を象徴するといわれている。ぶどうの搾り機から考案された印刷機から、最初の本である聖書が誕生したという、印刷機や本の起源の話から始った。さらにニーチェやフーコ、ストロースなど影響を受けた哲学者の考え方から、ポリスの多義性(思想:ポリシー)、さらに民衆知と管理の話や再建されたアレキサンドリア図書館などを例に、これからの図書館のあり方を論じた話へと続く。

 

知の集積所である図書館の原型といえるアレキサンドリア図書館は、プトレマイオスがBC300年に建てたといわれ、ヘレニズム文化の中心地でもあったことから、多くのローマ・ギリシャの賢者が訪れたという。再建された現在のアレキサンドリア図書館の外観はやや奇抜であるものの、周囲の風景に溶け込んでいて、ランドマークとしてふさわしく、なにやら親近感も覚える。

 

地域に散らばる歴史や暮らし、文化や芸能などの知をクローズアップし、まとめた本として集約・編集し、さらに多くの人々へ開放するための管理された施設である図書館の形態は、その地域に必要不可欠なものといえるだろう。遠心力で広がる知識、それは求心力で体系化される、という考え方は、とてもわかりやすかった。

 

知と、その対極にある本の振幅は、学問とともに極大化していき、その結果が図書館に収まる、というわけで、その様は膨張する宇宙とともに広がる塵(知)、ふっと生じたゆらぎと吸引力により、新たに生成される星(本)、いろいろな星が共存する宇宙(図書館)。知と本と図書館は、宇宙の営みのように思える。「図書館は小さな宇宙なんだ」と、夜空を見上げながら、ほのかな温もりを感じた。

 

ポンペイの柱

アレキサンドリア図書館の外壁


星座で新たな発想を

構想を発想する方法のひとつとして、アソシエーショニズムをベースにした新たな構想発想法を考えてみた。

 

夜空を見上げるといろいろな星がみえる。人類はその星の運行を知りたいと考え星座を想い描いた。北斗七星は確かに柄杓の形をなし、カシオペアはWの文字を夜空に描く。しかし面白いことに、それらの星の関係性は無い。冬の地中海をケダリオンの肩に乗り夜空を駆け抜け、地の果てのシリウス星を眺める豪傑オリオン。神話に代表される物語が、きらめく星座の存在を補完している。

 

宇宙には小さな塵が無数に存在し、常に膨張しているという。その混沌とした世界では、僅かなゆらぎにて小さな塵が集まり星が形成される。やがて巨大な求引力により星が誕生してきた。知の結集した本が集まる図書館は小さな宇宙だ。そう考えると、一人一人の脳内にも、小さな宇宙が存在していてもおかしくはない。その小さな宇宙で輝く星を繋いでみよう。ここに新たな関係性を有した星座が誕生するはずだ。星座による構想発想法は、この考え方が原点となる。

 

星座はコンステレーション(Constellation)と訳される。ラテン語のコン(con)は英語でいえばウィズ(with)、ステラ(stela)は星。ステラはギリシャ語のストラテジー(軍隊をまとめる)に通じる、といった話を聞いたことがある。若干、怪しいものの、しかし、星座たる構想を理念の基礎とし、さらに具現化していくと戦略になる、と考えてもいいのかもしれない。

 

一方でコンステレーションとは心理学の世界では、布置とも訳される。宇宙に広がって置かれた星々。「偶然」に散らばった星たちも、星座の概念からすれば、その繋がりは「必然」といってもいいだろう。ともすれば、見えないはずの星さえも見えてくるから不思議だ。星座が構想たる形にならなければ、自ら、見えない星を探しに行かなければならない。常に好奇心を抱き、問題意識を持って、社会の動きをみていると、構想の種たる小さな星が次々と誕生する。構想は、偶然、想い浮かぶものではない。必然の結果として現れるものなのではないだろうか。

夜空の星々

思考の星座概念


ある若者の星座

 ある若者の夢は、一流の料理人になって世の中の人々に歓びと感動をもたらすことだった。その夢に向かってどうずればよいか考えるわけだが、経験による星の数が足りない。このため、夢を実現する星座のカタチが一向にできない。考えがまとまらないまま、つてをたどって、東京の一流レストランで修業することになった。しかし、依然として星が足りないと感じた若者は、背水の陣にて、単身、憧れの国フランスへと旅立った。

 

「観光」と違い「旅」はつらい。小さなレストランで働きながら、土地の言葉を覚え、文化を学び、一流レストランへ自分の作品と手紙を送り続けた。ある日、三ツ星レストランから声がかかり、やがてそのレストランのシェフとなって自分を磨くこととなる。さらに修行をするため二つ星レストランでのシェフとして活躍した。旅の結果として、新しい星を作りだしたのだ。やがて若者は日本の地に再び降り立った。

 

経験と学習で得た知と、社会を背景とした未踏の世界への挑戦意欲が、求引力となり新たな星を生み出す。そして星座をカタチ作る。旅先で体験した「文化」と、先人の知恵が結集された「厨房」。若者の小宇宙ともいえる「頭所(としょ)」の中で、「星座」たる新たな「構想」ができつつあるのかもしれない。 

パリの空


思考の星座 論評

長谷部さんが、「思考の星座」という大構想を発表しました。素晴らしい<思考の宇宙>の展開力をそこに感じます。感銘を受けました。

 

そこで思ったのは「頭解(ずかい)」という概念でした。長谷部さんは、実に優れた解析力を持っています。それらを、得意な「図解」で表現してくれます。この図解については、久恒先生など多くの先達が研究し、技法を開発しています。そこで大切なのは、図に表す技術もさることながら、一人ひとりの頭の中に凝縮した「思考・構想の宇宙」の所在だと、思いました。

 

日本地域資源学会の<本のサロン>で、図書館とは何か、という話をさせてもらいましたが、その時考えたのは、フーコーにしても、ベンヤミンにしても、図書館の虫でしたが、彼らは図書館に在る本という情報から、長谷部さんの言う「思考の星座(宇宙)」をどう構築していくか、という作業を無心に行っている。彼らは膨大な書籍の山から、いったん頭の中に自己の主題に合わせて、思考の宇宙を創出させる訳です。そしてその「頭の宇宙」から、再びアモルファス状(脳細胞のカオス)の構想を、文章や図や、数値としてデザインする(思考を取り出す)作業に向かうことになります。

 

例えば、芭蕉は5・7・5という俳句・短詩に芸術的に凝縮して、「頭解」することになります。したがって、いま私たちが究明しなければならないのは、思考のカオス(星雲)の創り方と、その抽出技法としての「頭解」である、と私は長谷部論文に創発されたのです。

 

私は、長谷部さんが様々な講演や、プロジェクトメークの機会に、それらを抽出する試みをしていますが、彼が中心になって「頭解」の手法開発をコーディネートしていったら、と考えます。今後、この事業が私たちの研究の柱の一つとなり、例えば『知的生産の技術』に続くような本にまとまれば、と思っています。新年早々に、構想博物館で新年会を兼ねて、クロスインパクトミーティングを行いたいと考えていますがいかがでしょうか。みなさまどうぞ、お楽しみに。

構想博物館館長 望月照彦

構想博物館館長 望月照彦教授